未だにあの日の痛みは記憶に残っている。


勇介と、これから全てがちゃんと始まるのだと思っていた矢先の、あの出来事。



「ヒロトはさ、そんなの全部が怖かったんだよ。
まだ奈々ちゃんの心に土屋クンがいるんじゃないか、俺じゃなくて良いのかも、って。」


傷つけていたのは、ヒロトに縋っていたあたしの方だ。


わかっていながら彼といたあたしは残酷で、そして苦しめていたんだとも思う。


もっと早くに別れていれば、樹里まで巻き込むことはなかったかもしれないのに。



「ねぇ、ヒロトと樹里は何で別れたの?」


過去のことなのに、聞かずにはいられなかった。


だってあたしもまた、樹里が大切だったから。



「喧嘩別れ、って言うのかな。」


スッチは思い出すように息を吐く。


耳障りな雨音は、やっぱりこの場所にまで響き渡る。



「あの頃のヒロトは今なんかよりずっと荒れてたし、樹里はあんな性格だから、心配して怒ってばっかでさ。
でもヒロトはそれに耳を貸さなかったし、あの頃の樹里はそんなアイツを支えられなかった。」


それに、と彼は言う。



「ヒロトはさ、樹里と別れて後悔してたんだよ。
どうしてもっと大事にしてやれなかたんだろう、って。」


ならば、嫌い合って別れたわけではないのだろう。


何だか聞いていると、虚しくなるばかりだ。



「でも樹里は、反面で支えられたいとも思ってたんだ。」


そんなの普通のことなのにね、とスッチは悲しげに笑う。


樹里が年上を求めたのはそんな理由だったからかもしれないけれど、でも結局は、いつも心にヒロトがいたんだと思う。