「悪いのはヒロトなのかもしれないけどね。
アイツはそれでもやっぱり奈々ちゃんといたくて、なのに逃げ道を作ったんだ。」


ヒロトが悪いなんてことも思わない。


だって今まであたしは、そんなヒロトに救われていたのだから。



「樹里はさ、ヒロトも大事だったけど、同じくらい奈々ちゃんも大事だと思ってたんだ。」


全部わかっていることだ。


樹里は決して、あたしに敵意を向けることなんかなかったし、別れさせようとなんてしなかった。



「だから一番納得出来なかったのは土屋クンに対してで、でも理由を問い詰めたのに答えてくれなかった、って。」


それがあの日、言い争っている風のふたりを見た真実だったのかもしれない。


誰のためにしたことかはわからないけど、でも樹里は、あたしよりずっと強くて綺麗な心を持っている気がした。


逃げることしか出来ないあたしとは、大違いだ。



「…土屋クンのことだけど、さ。」


スッチは気まずそうに言葉にする。



「樹里が言うにはね、今もいっつも奈々ちゃんのこと見てるんだって。
アイツはヒロトを見てて、そしたら一緒にいる奈々ちゃんのことを見てるのが誰かくらい、すぐにわかるから、って。」


「…そん、なの…」


「俺が前にさゆのこと見てたのも、土屋クンは気付いてたしさ。
結局、みんな好きな人のこと目で追ってて、だから気付きたくないことに気付いちゃうんだろうけど。」


スッチは困ったように笑っている。


もしかしたらそれが、あたしが何ひとつ気付けなかったゆえんなのかもしれない。



「なのにどうして土屋クンは、奈々ちゃんを裏切ったんだろうね。」