スッチに連れられた場所は、いつぞやの保健室の近くの階段裏だった。


あの時は沙雪への想いを聞き、ここで嬉し涙を流したはずなのに。


なのにこれから彼が何を話すのかくらい想像に易く、だから悲しみの涙ばかりが溢れる。


スッチは長い沈黙を経て、やっと重い口を開いた。



「写真、見たって聞いたよ。」


樹里と映る、中学時代のヒロトのアルバム。



「ヒロトは奈々ちゃんのことが好きだったけど、樹里はアイツのことが忘れられなかったんだ。」


「…じゃあ、どうして…!」


どうして樹里は、あたし達を応援してたの?


そう聞きたくて、でも言葉にならなかったあたしを遮り、彼は言う。



「樹里が一番大事にしてたのは、友情なんだよ。
だからアイツは自分のことよりヒロトの幸せを願ってたし、奈々ちゃんと両想いになってくれればそれで良いって思ってたんだ。」


お節介なほどに友達を大事にする、樹里。


それは痛いほどにわかっていたけど、でも、裏切られた。



「樹里はさ、納得出来なかったんだって。
ふたりがあんな始まり方して、ヒロトが荒れていくのとか、もう見てられないって。」


「だからって、やって良いことと悪いことってあんじゃない?」


「そりゃそうだけどね。
でも、俺は樹里の気持ちも奈々ちゃんの気持ちもわかるし、どっちも責めるつもりはないよ。」


けど、と彼は言う。



「ヒロトはさ、奈々ちゃんのこととかお母さんのこととか、ひとりじゃ抱えきれなかったんだ。
それでも良いから、って言ったのは樹里で、アイツはそんなヒロトでも支えてあげようと必死だったんだよ。」


それは、彼から目を逸らしていたあたしに責めるべき資格のないことだ。


ヒロトの弱さに気付きながらも、あたしは何ひとつしようとはせず、求めるばかりだったのだから。