「俺はお前とは違って樹里とは何もやってねぇんだよ!
お前が俺のこと責める筋合いあんのかよ!」


「そんなのわかんないじゃん!」


もうとっくに、互いなんて信じていなかったということだ。



「フラフラしてるお前に言われたくねぇだろ!」


「じゃあアンタはフラフラしてないって言えんの?!」


轟音の中で、相手を傷つけるナイフのような罵声を浴びせ合い、止められなかった。


だから全てを吐き出してみれば、その場に居続けることは困難だった。


ヒロトのことは大切だと思っていたし、彼もまた、あたしのことを同じように思ってるとも思う。


けど、それだけでは一緒にいられなかった。


見ないフリをして、何も聞かないことでは、信頼関係さえ生まれなかったということだ。



「もう良い。」


それでも、言葉は“別れよう”ではなかったのは、あたし達らしいのかもしれない。


泣きながら背を向けるあたしを、ヒロトも引き留めたりはしなった。


粉々に砕けた関係がもう元には戻らないことはわかっていたし、終わらせることほど簡単なことはなかったはずだ。


なのにたった一言が言えなかったのは、互いの弱さだったのかもしれないけれど。


再び校舎へと戻り、ひとり肩を震わせた。



「奈々ちゃん。」


スッチは気遣うように悲しそうな顔をしている。



「ごめん、聞くつもりはなかったんだけど。」


でも心配だったから、と彼は言う。


本当は全部知っていて、どうせこうなることもわかっていたのだろうに。



「とりあえず、別んとこ行こう?」