「何でもねぇよ!」


だけどヒロトは、バツが悪そうに舌打ちをする。


彼が言い訳でもして取り繕ってくれればまだ、どうにか出来たかもしれないのに。



「何でもないわけないじゃん!
あたしが何も知らないとでも思ってんの?!」


堰を切ったように、言葉が止まらない。



「今も樹里と影で会ってんじゃないの?!
あたしに内緒で部屋に入れて、そんなの全部知ってんのよ!」


刹那、再びガッ、と壁を殴る音。


身がすくみそうになるが、でももう引けなかった。



「アンタみたいなの、信じたあたしが馬鹿だった!」


今のヒロトにこんなことを言うべきじゃないことくらいわかってても、溜め込んでいたものが決壊した。


もう終わりだったのかもしれない。



「じゃあお前はどうなんだよ!」


だけども彼は、あたしの両肩を掴み、激しく揺する。


辛うじて屋根の下にいるけれど、でも激しさを増した雨の音は轟音となった。



「アルバム見て帰ったあの日、お前どこで何やってたんだよ!
街で土屋と抱き合ってたんじゃねぇのかよ!」



知ってた、の?



「お前らこそ何なんだよ!
どうして未だにアイツは、お前のこと見てんだよ!」


ヒロトもまた、抱えていたのかもしれない。


肩口を揺さぶられ、言葉の意味を考えらなくなり、脳しんとうでも起こしてしまいそう。


ただ、緩んだ涙腺から涙が溢れる。


泣きたいわけじゃないのに、制御することすら出来ない。