あたしじゃない人がいるくせに。


自分から手を離したくせに、今更になってそんな目で見ないでほしい。



「…ねぇ、何であたしのこと嫌いになったの…?」


気付けばそんなことを言葉にしていた。


だけども勇介は、ひどく悲しそうな顔で視線を外す。



「奈々のこと、嫌いだと思ったことなんか一度もないよ。」


「…じゃあ、何でっ…!」


「でも、俺らは一緒にいちゃダメなんだ。」


この人まで、あたしに何かを隠しているのだろうか。


それともただ、泣いてるあたしに気休めの言葉を向けているだけ?


何もわからなくて、でも涙ばかりが溢れてしまう。



「奈々は葛城といて、幸せ?」


勇介はそっとあたしの涙を拭い、問うてくる。


冷たい指先に触れられると、あの頃を思い出して動けなくなる。


それは、樹里のことを忘れられないヒロトと同じなのかもしれないけれど。



「なぁ、どうして俺らはこんな運命なんだろうね。」


勇介の呟いた言葉は、雑踏に溶けた。


その意味を噛み砕くより先に抱き締められて、彼の香りに包まれる。


甘さと煙草の混じる、あの独特なもの。


どうしてあたしはいつも、抵抗出来ないのだろうか。


気付けばもうずっと、あたしは星なんて見ていなかったのかもしれない。



「俺らは出会うべきじゃなかったんだよ。」