夜が訪れて、街に来たのにシンちゃんの店に行こうとは思えなかった。


だけども家にだって帰る気がしなくて、だから行く当てもなくさまよってしまう。


いつもこの場所では、雑踏があたしを包み隠してくれる。


偽られることに嫌気がさしているはずなのに、なのにあたしが今いるのは、偽りだらけの場所なのだから。


ネオンの色が歪んで見えて、行き交う人々の顔さえ淀んでいる。


もしかしたらあたしはあの時、声を上げてヒロトを責めるべきだったのかもしれない。


そしたらあたし達は、本心を言い合えていたのかもしれないのに。



「…奈々?」


弾かれたように顔を向けた瞬間、驚くことしか出来なかった。


どうしてこんな場所に消えてしまいそうなあたしを、見つけられるのだろう。


いらないのなら、声なんて掛けてこなければ良いはずなのに。



「…勇、介…」


もう、一体いつ振りに顔を合わせたのかすら思い出せなかった。


ただ、また涙腺が緩んで目を逸らすあたしを、彼は悲しそうな顔で見る。



「なぁ、何で泣いてんの?」


「関係ないじゃない!」


「…葛城と、喧嘩でもした?」


「放っといてよ!」


見せかけの優しさほど、人を傷つけるものはない。


どうして今になってこの人は、あの頃と同じようにあたしを見るのだろう。



「でも、こんなとこいたら風邪引くじゃん。」