あたしはその時、上手く笑えていたのだろうか。


カノジョはあたしで、なのにお母さんは、それを樹里だと勘違いしていることの意味。



「まぁ、この前も来てたしねぇ。」


思い出したように、彼女はケラケラと笑っている。



「ほら、あのふたりって中学の頃に付き合ってたじゃない?
別れてから心配してたんだけど、最近復縁したみたいだし、あたしも安心してんのよ。」


乾いた笑いが、余計にあたしの口元を引き攣らせている気がした。


ただ、お母さんの言葉だけが、ぐるぐると頭の中をまわる。


樹里はずっと前から、あたしにヒロトと付き合えとか言っていたはずだ。


なのにこれは、どういうこと?


不意に、先ほど彼が見られることを拒んだアルバムのことを思い出した。


まさかと思いたかった。


でも意志とは別に体は勝手に動き、きびすを返してヒロトの部屋に向かう。


バンッ、と扉を開けた瞬間、彼は驚いてあたしを見る。



「何、どうしたよ?」


でも、それさえ無視をし、一目散にゴミ箱の中のものに手を伸ばした。


ヒロトの制止は一瞬遅れ、開き見たアルバムの中。



「奈々!」


どういうつもりであたしの名前を呼んでいるのだろう。


そこに写っていたのは、中学の頃のヒロトと樹里で、ふたりがキスをしている写真だった。


頭のどこかで、こんな写真なんじゃないかとは思っていた。


でも、相手は樹里だ。


しかも、その関係は未だに途切れていないらしい。