リビングで顔を覆って立ち尽くしていると、後ろから掛けられた声に体が跳ねた。


弾かれたように顔を向けてみれば、ヒロトのお母さんだ。


もちろん面識はあるが、やっぱり少し、緊張する。


彼女は今しがた帰ってきたように荷物を持ち、こちらに駆け寄ってきた。



「どうしちゃった?
気分悪いとかどっか痛いとか、ある?」


きっとあたしの顔色で、心配になったのだろう。


見た目は元ヤンって感じの彼女だけれど、樹里のように面倒見が良いのは知っている。



「ごめんなさい、大丈夫です。
てか、お邪魔してます。」


言ってみた後で、素っ頓狂だったなと思った。


でもお母さんはそれにケラケラと笑い、びっくりしたー、なんて言ってくれる。



「今日は奈々ちゃんだけ?」


「いや、さっきまでは沙雪とスッチもいたんですけど。」


「あぁ、そうなんだぁ!」


どうやらセックスをしていたことはバレてないのだろうと、ほっと胸を撫でろした瞬間だった。



「樹里ちゃんは来てないの?」


「…え、はい。」


「あら、珍しいねぇ。」


どういうこと?


確かに樹里だってヒロトと同じ中学出身なのだし、ここに来てること自体に疑問はないのだが。


でも、何故だか心臓は嫌な脈を刻み始める。


聞かなければ良かったんだ。



「何でアイツ、カノジョなのに連れてこないのかしらねぇ?」