ヒロトを好きな気持ちに、何の変わりもない。


彼がいてくれなければ今もあたしは絶望の淵に立っていたと思うし、だから感謝もしているのだ。


なのに、気付けば愛の言葉をささやき合うことさえなくなっていた。



「なぁ、俺とお前はずっと一緒にいるんだよな?」


抱き締められ、確認めいた言葉を投げられる。


乱れた金色の髪にくすぐられ、当たり前だよ、とあたしは言った。


キスをして、確かめなければ関係を保てないかのようだ。


触れ合っているのに、肌寒さが拭えない。



「つーか腹減った。」


そう言って、ヒロトは体を離し、煙草を咥えた。


あたしもベッドから起き上がり、手早く服を着る。



「この部屋、日当たり悪いよね。」


だから余計に寒いのだろう。



「飲み物もなくなっちゃったし、ついでに何か食べる物も取ってくるよ。」


軽く髪の毛を直して言うと、ヒロトは未だ、ベッドの中で煙草を咥えたままだ。


大した返答がないのはいつものことで、だからあたしはそのまま部屋を出た。


もしかしたら、無意識のうちに一緒にいることを拒んでいたのかもしれないけれど。


これほど近い距離はなくて、なのにもう、心は離れているのかもしれない。



「あら、奈々ちゃん?」