「なぁ。」


玄関先で靴を履き、ふとヒロトは振り返る。



「お前にとって、俺って何なわけ?」


「……え?」


でも、言葉の続きはないまま、彼はドアを開けた。


外はすっかり暗くなっていて、ヒロトの顔を寂しげに見せる。



「何かに悩んでても、お前はそれさえ俺に言わねぇもんな。」


そしてパタンと閉まる扉。


あたしは戸惑ったまま、引き留めることさえ出来なかった。


ヒロトをないがしろにしているつもりはないし、確かに好きだと思ってる。


けど、でも、言わなかったということはつまり、あたしは全てを曝け出せないということだ。


不意にまた勇介の顔を思い出し、急いでそれを振り払った。





謎に満ちたあたしの出生。

ヒロトの憂鬱そうな顔。

樹里の考えていること。

そして勇介のあの態度。





それら全てが頭の中をぐるぐると廻り、混乱する一方だった。


まず、何から考えれば良いのだろう。


と、いうか、考えたって答えなんて見つかるはずもない。


でも、聞けば全てが崩れてしまう気がして、それさえ怖いなんて。


頭を抱え、あたしは玄関先に座り込んだ。