でも、ママが飲み屋で働いていたとするなら、シンちゃんと知り合う辻褄は合う。


彼の店は夜の街にあり、飲み屋街からもそう遠くはない。


だからそこで仲良くなったとしても、不思議なことではないはずだ。


シンちゃんがママとの出会いを教えてくれなかったということは、つまりは彼女が夜の仕事をしていたことをあたしに知られては困るということ。


ならば、あたしの父親は、誰?


思えばママの働いていた会社の名前さえ、聞いたことがなかった。


毎月決まった日に、決まった額を振り込んでくれている、名前も知らない人がいる。


ずっとその人が“父親”だと教えられてきたけれど、写真の束の中にはそれらしき男の人の姿はなかった。



「おい、奈々!」


途端に自分が何なのかがわからなくなった。


ママやシンちゃんが嘘をつく意味も、その理由も何もかも。



「おいってば!」


ヒロトに強く揺すられ、視線が定まらなくなる。


だけどもその後ろに見えた時計の針は、ママの帰宅の時間が迫る頃。


急いで全てを片付けるように段ボールに仕舞い、それをクローゼットに戻した。



「ごめん、ヒロト。
悪いけど今日は帰ってくれない?」


今は彼と笑い合っている心の余裕はない。


必死そうなあたしを見て、ヒロトは諦めるように息を吐く。


そしてわかった、とだけ言って、玄関へときびすを返した。