「てか、奈々ちゃんも別れて速攻葛城ヒロトと付き合ってんでしょ?
あたしも誰か紹介してよねぇ!」


「そうそう、超羨ましいっての!」


無言で立ち上がった時、あたしはどんな顔をしていただろう。


ただ、その場にいられなかった。


教室を出て、無意識のうちにあの人の姿を探してしまう。



「ヒロト!」


気付けばあたしは、息を切らして彼の前に立っていた。


呼び止められたヒロトは、ポケットに手を突っ込んで、顔だけを振り向かせる。



「ねぇ、一緒に学校抜けようよ!」


「…あ?」


「デートしようよ、デート!」


嘘のように笑ったあたしの顔をいぶかしげに見て、ヒロトは考えるように視線を外した。


お願いだから、ここから早く連れ出して、と。


今、この瞬間から逃げ出せるのなら、何でも良かったのかもしれない。


頭ではヒロトを利用しているんだとわかっていても、もうどうすることも出来なかった。


勇介が他の女といるところを見てしまえば、またあたしは自分を持することが出来なくなるだろうから。


そんな願いにも似た気持ちを抱くあたしに向け、彼は諦めたように息を吐く。



「しょうがねぇなぁ。」


きっとあたしはその言葉を聞き、ひどく安堵していたことだろう、ただ力が抜けた。


シンちゃんの忠告だって、覚えていないわけではない。


それでももう、強がることにも疲れ果てた。