「良いって、そんなの。」


「でも、痛いんだろ?
俺単車だし、心配してんだから素直に甘えてよ。」


勇介の優しさは、やっぱり何も変わらない。


結局頷くことしか出来なくて、彼の肩を借りることとなった。



「うわっ、奈々ちゃんどしたの?」


今度やってきたのはスッチだった。


ネンザだと教えると、彼は大袈裟に驚いて見せる。



「んじゃあ、土屋クンにしっかり看病してもらってね。」


そう、ケラケラと笑うスッチを見れば、きっと知っているのだろうと思う。


べーっと舌を出すと、「お大事にー。」と逃げるように彼は去っていく。


あたしは頬を膨らませた。



「奈々はみんなに心配されてるね。」


困ったように言った勇介は、行こう、とあたしの腕を取る。


何だかそれが、少しだけ寂しそうにも見えたのは、気の所為だったのだろうか。


幾分下に降りてきた太陽が彼の顔を照らし、体育祭ももうすぐ終わる頃だろう。


すでに帰ったのか、ヒロトの姿はない。


アイツももしかしたら聞いたのかもしれないが、でも互いに関係のないことだった。


あたしは勇介のことが好きで、だからヒロトのことを気にするべきではないのだろうとも思う。


幸せなはずなのに、何故か心の中に燻る不安な気持ち。


閉会式も、やっぱり滞りなく行われた。