笑いながら勇介は、首を傾ける。


思えば彼は今まで一度として、“付き合おう”なんてことは言わなかったはずだ。


だからまるで、あたしの気持ちの変化が目に見えているのかとさえ思ってしまう。



「返事は?」


問われ、こくりと頷いた。


勇介は、やっぱりそれさえ見透かしていたかのように、口元を緩める。


何だか恥ずかしくなるばかりのあたしと、笑ってばっかの彼。



「…何よ?」


「いやいや、奈々ちゃんはやっぱり可愛いなぁ、って。」


「うるさいよ、もう!」


あははっ、と彼は声を上げる。


あたしはその体をぺしっと叩くが、でもまた笑われた。


本当に、どこまでいっても調子の狂う男だ。



「でもさぁ、俺こんなにマジになったことってないよ?」


そんな言葉さえ恥ずかしくて、はいはい、と愛想もなく返してしまう。


結局サボってばかりもいられず、あたし達はグラウンドに戻ることにした。


もっといたいと勇介は駄々をこねるが、さすがにあたしの出る種目の時間も迫って来ている。


さっきと今で何が変わったわけでもないはずなのに、隣の男は“カレシ”になってしまったようだ。


それが何だか、とてつもなく変な感じだと思った。