大地くんは、幼馴染とのどうにも出来ない関係に苦しみ、沙雪に逃げた。


それは事実だし、だから言い訳なんてしないのだと言ったらしい。


彼女のためにと言った言葉が真実かどうかは、あたし達にはわからないけど。


でも彼は、学校を辞めた。


本当は逃げただけだったとしても、未来への選択肢のひとつを潰したのは、事実だから。



「…何それ。」


樹里の呟きは、虚しく宙を舞った。


勇介はもうずっと前からそのことを知っていて、でも隠していたのだ。


いや、あたし達の手前、言わなかっただけなのかもしれないけれど。


それから大地くんが幼馴染とどうしているのかなんて、もう聞かない方が良いのだと思った。


失い過ぎた、夏。



「…さゆはこのこと、知ってるの?」


どうかな、と勇介は濁す。


本人にこのことを聞くってことはつまり、彼女の前で大地くんの名前を出すということ。


残念ながらあたし達に、そんな勇気はない。



「やっぱ行ってくる!」


でも、いても立ってもいられなくて、あたしはその場を離れた。


ふたりは驚いたように「奈々?!」と呼ぶが、でも今一番心配なのはやっぱり沙雪のこと。


きっと、大地くんとの思い出に溢れた学校だ、それを思い出して、あの保健室でひとり泣いている気がしたから。


だからあたしは、彼女の元へと急いだ。