朝のホームルームも滞りなく終わり、次は体育館に移動しての、始業式。


クラスメイト達はそれぞれに廊下に出るが、沙雪はさすがに疲れを顔に滲ませていた。



「さゆ、やっぱ保健室行く。」


「お腹痛い?」


「てか、ずっと田舎にいたしね。
こっち空気悪いし、ちょっと久々の人の多さに酔ったのかも。」


そう苦笑いをし、沙雪はひとり、人の波に逆行した。


あたし達は、何かを押し付けたりはしない。


彼女には彼女のペースがあって、だから乗り越えるのを見守ってあげたかった。


あたしと樹里は廊下の壁に寄り掛かり、体育館に行くでもなく、歩く生徒たちをただ見つめ続ける。


もしかしたら、探していたのかもしれないけれど。



「何やってんの?」


足を止めたのは勇介ひとり。


彼も体育館に行く途中だったようで、珍しくA組の前を通っていた。


樹里を一瞥し、あたしは口を開く。



「大地くん、来てないんだ?」


いつも勇介の隣に、彼はいた。


もう二度と会いたくないとは言っても同じ学校だ、そういうわけにはいかない。


でも今日、その姿を見ていないから。


なのに勇介は言葉をためらうように周りを見て、そして困ったような顔をした。



「なぁ、ちょっと別の場所で、良い?」