どこかで今日、この瞬間にも誕生した命がある一方で、消された想いもあるのだ。


勇介とスッチの煙草の煙は漂うように4人の間で揺れ、ため息に混じる。


樹里はカウンターにうつ伏せ、自らの手の平を見つめていた。


人を殴ったのなんて初めてだと、先ほど言っていたっけ。


大地くんは今、どんな気持ちで、そして何を想っているだろう。


沙雪の心は、いつか救われる日が来るのだろうか。



「お前ら、辛気臭ぇ顔してんじゃねぇよ。」


そう言ったシンちゃんは、再び奥の扉から顔を覗かせた。


時計を見ればもうすぐ普段の開店時間なのだが、さすがにこんな状態のあたし達に店にいてもらっては迷惑なのだろう。


カウンターの中に突っ立ったままだったあたしの方に歩を進めた彼は、眉を寄せたような顔で買い物袋を手渡してきた。



「ほら、これやるから。」


きっとさっきの間にコンビニにでも行って買ってきたのだろうが、それにしても不似合いなそれと彼の顔を、驚いたままに交互に見てしまう。



「大体の事情はそこの野郎二匹に聞いたけど。」


勇介とスッチをあごで指し、シンちゃんは煙草を咥えた。



「それに今日、花火大会だろ?
まぁ、代わりにってわけでもねぇけどよ。」


袋に入っていたのは、花火のセットだった。


確かに今日、河川敷で花火大会があるんだったことを思い出したけど、でも行く気分ではない。


それを見透かしているのだろうシンちゃんは、強引にあたしにそれを押し付けた。


どうしたものかと樹里の顔を見れば、彼女は頷く。



「さゆの赤ちゃんに、さよならしよう。」