「さゆがどんだけ泣いてたのか知らないでしょ!
どんな気持ちだったかわかってんのかよ!!」


樹里は止めるあたしも無視で、大地くんの胸ぐらを揺すった。



「もう二度とうちらの前に現れんな!」


そんな彼女を無理やり引き剥がした。


彼は顔を覆うように隠してしまい、ふざけんなよ、と未だ罵る樹里を引っ張った。



「もう良いってば!」


渾身の力で角を曲がった場所まで連れて行くと、彼女は悔しそうに泣きながら、その場に崩れ落ちる。


こんなのはただの八つ当たりだとわかっていても、あたしは樹里を責められない。



「帰ろう?」


だからって慰めの言葉ひとつ見つからず、そう言って彼女の腕を取った。


まるで迷子になった子供を連れて行くように、あたしは樹里と手を繋ぐ。


夏の陽が眩しくて、でも涙で滲んでしまう。


もうタクシーを拾う気力すらもなく、ただトボトボと、あたし達は当てもなく歩いた。


暑いとかお腹が空いたとかそんなことも忘れ、脳裏にこびり付いているのは沙雪の泣き顔。


楽しい計画でいっぱいだったはずの頭の中なのに、もうそんなものすら消え失せていたのだ。


こんなに悲しい夏を、あたしは知らない。