着いた場所は、学校からそう遠くはない、閑静な住宅街だった。


樹里は前に、大地くんがこの辺に住んでいるというのを聞いたことがあるらしく、すぐに犬の散歩をしていた人を呼び止め、家の場所を聞いていた。


さすがに勇介に相談するべきなのかもしれないとは思ったものの、樹里はこの状態で人の意見なんて聞くことはないだろうし。



「2丁目だって。」


あっちらしいよ、と言った彼女に手を引かれる。


家に直接行ったっている保証はないのだが、電話をしたって出てくれるとも限らない。


ずんずんと歩く樹里は、一軒の家の前で足を止めた。


表札には“神谷”と書かれている、普通の家だ。


樹里はあたしの顔を一瞥し、呼吸を整えて、迷うことなくチャイムを押した。


少しすると、扉を開けたのは大地くんで、彼は部屋着のような格好。


普段は小洒落ていることを知っているだけに、驚いてしまうのだが。



「話、わかってんでしょ?
ちょっと顔貸して。」


彼女はそれを睨み付ける。


大地くんは無言のままに視線を外し、その態度に怒ったらしい樹里は唇を噛み締めた。


と、同時に、バチンと乾いた音が響く。



「…ちょっ、樹里っ…」


言い掛けたが、でも彼女は声を荒げた。



「さゆの痛みはこんなもんじゃないんだよ!
もう赤ちゃん死んじゃったんだよ!!」


「樹里、落ち着いて!」


住宅街でも殴り掛かりそうな勢いだった彼女を必死で止めたものの、大地くんは顔を上げたりしなかった。


彼は唇を噛み締め、でも何も言わないまま。