「じゃあまた顔見せに行くって、さゆに伝えてください。」


「うちら、帰ります。」


言うと、ママさんはあたし達に頭を下げてくれた。


彼女が手に持つハンカチには、涙の痕が残っている。



「これからも、沙雪のことをよろしくね。」


そんな言葉を背中で聞き、振り返ると、ママさんは頭を下げたままに肩を震わせていた。


きっと、顔を上げることすら出来ないのだろう。


見えもしないのにあたしと樹里は、そんな姿に向かって頭を下げ、きびすを返した。


あたし達は、お礼を言われるべき立場でもなければ、すごいことをしているわけでもない。


それに、この場に居続けることが出来なかったのもまた事実で、だから急いで病院を出たのだ。


昼下がりに差し掛かった陽は、少しだけ熱を緩和させている気がする。


ふたりで手を繋ぎ、泣きながら歩いているあたし達は人の目に晒されるが、でも沙雪の痛みを考えればそれすらどうでも良いことのように思えた。



「大地んとこ、行こうよ。」


足を止めた樹里は、決意した顔であたしを見る。



「行って、ちゃんと言わなきゃいけない。」


もう一度強く言った彼女は、唇を噛み締めた。


迷ったが、樹里が何を思ったのか、そして何を言うのかがわからないからこそ、ひとりでなんて行かせられるはずもなかった。


あたしが頷くと、彼女は再び歩を進める。


タクシーを捕まえると、樹里は目的地を告げた。