少し迷ったが、でもあたしは言葉にした。


樹里はいぶかしげに眉を寄せ、「聞かせて?」と神妙な顔をする。


あたしはあの日の勇介の言葉をなるべく一言一句正確に、彼女に伝えた。


想いを寄せている幼馴染のこと、これが大地くんなりの責任の取り方だということ。


私情を交えないように言葉を選びながら話してみれば、樹里は何も言わずにただ黙って話しを聞いていた。


それからどれくらい話し込んでいただろう、気付けば沙雪のママさんに声を掛けられ、あたし達は我に返った。



「手術、終わったわ。」


あたしと樹里は、顔を見合わせる。



「まだ麻酔で眠ってるけど、もう少ししたら目を覚ますと思うから。」


「さゆと会えますか?」


「えぇ、きっとあの子もふたりの顔を見たいはずだから。」


行こう、と樹里は言った。


あたしはそれに強く頷き、ふたり、ママさんの顔を見上げた。



「ありがとう、ふたりとも。
こんなに良いお友達を持てて、沙雪は学校が楽しいって毎日言ってたの。」


折角決意した顔をしていたあたし達なのに、彼女のそんな涙混じりの言葉で、また涙腺が緩みそうになる。



「この年頃の子供は親に言いたがらないことが増えるけど、でも私は、あなた達がいてくれるから大丈夫だと思っていたわ。」


「…違うよ、さゆはうちらの所為でっ…」


「そんな風に言わないで?
あの子だってふたりの所為だとは思ってないはずだから。」


遮られた言葉に、あたし達は肩を震わせた。


ママさんは、誰を責めるでもなく、仕方がなかったのよ、と言う。



「だからお願いだから、あの子を見捨てないであげて?」