――――……、




「……送ってくれて、ありがとうございました」



 自宅の前で、沙菜はお礼を言うと一つ頭を下げる。





「明日からは、普通にするんで……。だから先輩も、普通に勉強して友達と遊んだりしてください」



「………あぁ」



「っ……。それじゃ、これで」




 言葉に出しながらも、沙菜の表情はまるで痛みをこらえている様で……。


今にも泣き出しそうな彼女の表情を見て、迅はそっと手を差しのべ、沙菜の頭を撫でてやろうとする。



あと数センチで沙菜の髪に触れるというその時………、




―――…バンッッッ!





「沙菜っっ!」



「え? ……あ、パパ」




 今にも玄関の扉が壊れんばかりの音を出しながら、家の中から飛び出してきたのは、まぎれもない沙菜の父親だった。

……そんな父親の登場に、沙菜も迅も体勢はそのままに視線だけを玄関に持っていく。


ズカズカと、豪快に足音をたてながら父は沙菜たちの元まで歩みよるとその勢いのままに沙菜の両手をガシッ!と握り、涙を流しながら再度口を開く。





「お前、早く彼氏をつくれっっ! いや、結婚相手をつくれ! じゃないと、お前一生結婚できないままだぞっ!」



「「………は?」」




 父のその言葉に、沙菜と迅は異口同音に同じ言葉を口にする。

何を言い出すのかと思いきや、いきなり「結婚相手をつくれ」など言われてしまい、目を白黒させながらひたすらに父の顔を見ていると、後ろから今度は母がやって来て父の言葉に付け足すように説明しだす。


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