それは、本来側近として牡丹と共に柊の家へ行くはずだった哉匡で……。
「本気で、あなたを柊家から奪うつもりだった……。もし、戦うことになったのだとしても……」
―――……もういいの、哉匡。
「……っ、ん」
だって、もうあなたの事しか好きになれないのだと気付いてしまったから……
だから、もういいの……。
柊の家に行ったら、私はこころを殺して生きていくから………、だから、もういいの。
哉匡のその言葉に、牡丹はそう思いながらも唇を重ね合う……。
何度も互いの唇を重ね合い、そして見つめあう。
「愛おしく想っています……、牡丹」
「っ、私もっ!……私も、哉匡のことが、」
「あぁ、知ってる。……でも、俺は臣下で、お前は姫だ。だから、諦めようとしたけど……無理だった」
哉匡はそう呟いて牡丹をより一層深く抱きしめる。
……そして、何を見据えるのか真っ直ぐなその瞳のまま口を開いた。
「いい加減、出てこいよ。柊の間者」
「え……?」
『お気づきだったか。さすが小柳家に仕える武士』
牡丹の驚きの言葉と、柊の間者のその言葉はほぼ同時だった……。
哉匡は牡丹を抱きしめたまま、右手で太刀を取ると、目の前にいる間者に刃先を向ける。
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