「…大切なものが入ってるの。私の友人が見つけてくれるはずだから、だからこの屋敷で保管していて」
『………、姫様本当に今日お発ちになるんですか?』
「えぇ。……だって、そうしなければ柊家へ嫁ぐという意思が鈍ってしまうもの。最後にお庭を見てくるわね。きっとこれでもう……、見納めになってしまうでしょうから」
そう言い残して牡丹は、自室を出るとそのまま庭へと行く。
―――……すごく、綺麗。
もう二度と、この庭を見ることは無いんだわ……、
もし帰って来れたとしても、それはきっと親の急時のときだけ。
……さようなら、季節の花々が咲く大好きな庭、
父上、母上……小柳のみんな、
そして……、
「牡丹っっ!」
……私の大好きな人。
………涙を流しながらも笑顔を浮かべ、広い庭先に植えられた草花を見つめる牡丹に、彼女の名を呼びながらその細い体を抱きしめる者がいた。
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