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「っ、ひどいっ!あんまりだよっ」
そう叫びながら、沙菜は立ち上がる。
一連の動作を見ていた迅は、彼女のいきなりの行動に多少驚きながらも、苦笑を漏らしつつ口を開く。
「……この時代にはよくあった事だろ、政略結婚なんて」
「そりゃそうだけど。でも、好きでもない人のところにお嫁になんて行きたくないよっ!」
迅のその言葉に、沙菜は同意を表しながらも、それでもやはり『結婚』は好きな人としたいものだと、言い返す。
そんな彼女に、迅は先程と同じように苦笑を漏らしつつ話し出す。
「まともに恋愛したこと無いクセに、何言ってんだよ」
「……そだよ。わかってるじゃん、先輩……」
………ズキン。
迅の言葉に沙菜は涙をこらえながら、そう答える。
「そんな子がセフレしてたんだよ?………っ、どうして分かってくれないの?」
「おい、沙菜っ!?」
『どうして分かってくれないの?』
……沙菜は、そう言い残して居間から出て行く。
そんな彼女の行動に、迅は名前を呼ぶだけで沙菜が部屋から出て行くのを見送るしか出来なかった。
………沙菜は言葉を発したとき、迅に『こころの痛み』を気取られないようにと必死で笑顔をつくろうとしていたが……その笑顔はあまりにも痛々しく、何よりその『痛み』を隠しきれない涙が頬をつたっていた。
走り去る沙菜を見送った迅の表情も、涙は流していないにしろ、とても辛そうなものだった……。
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