私の記憶の世界は元・霧草宴だった。

今の霧草宴は北の山頂に佇んでいる。

元・霧草宴……七年前まで暮らしていた霧草宴は東の峠に建っていたが、破滅した。

霧草 椿の手によって。

「私の記憶の世界はやっぱり此処なのね。」

懐かしい木造建築の屋敷からは、檜のいい香りがする。

歩く度にミシミシ音をたてる渡り廊下も、懐かしくてしょうがない。

「私の試練は、過去への断罪。」


シュンッ


出て来た。

私の最も憎い人。


ゴオオオッ


彼の日の光景がそのまま再現される。

焔の竜巻が振り撒けば振り撒けば、屋敷は形を消していく。

「苦しめ、喚け。」

従姉妹の春美姉様に、椿が鎌を突きつける。

春美姉様は見る見るうちに泣き崩れ、椿に縋る。

「椿、何故なの? 何故?」

「私はもう疲れました、春美様。

知ってしまった。

そうとだけ言って、おきましょうか。」

私には椿の言葉の意味がわからなかった。

でもね、一生忘れないから私。

鎌を振り上げて、春美姉様の首をはねたんだあいつは。

「きゃぁぁあああ!!」

私の目の前で、七年前の小さい私が叫び声をあげる。

小さい私の存在に気づいた椿が、小さい私に駆け寄って抱き締める。

「ごめん、ごめん、忍、ごめん。」

最後にそっと私の頭を撫でると、椿は出て行った。

燃える竜巻の中、私と、春美姉様の死骸は絶望的に立ち竦んでいた。

「椿、なんで貴方が生きているの?

春美姉様みたいな素晴らしい方が亡くなって、なんであなたが?」

今現在の私は、立ち去っていく椿の背に、刀を突き刺した。

だが椿は私を無視して歩み続ける。

「……なんで春美姉様を殺した!?」

今度は椿の右肩を刺す、血が溢れ出す。

なのに椿は前進し続ける。

「なんで裏切ったの!?」

椿を引き裂く。

もう問う言葉が出て来ない。

「なん……で私を置いてったの……

お兄ちゃん……」

言いたく無かった。

絶対言いたく無かったんだ。

認めたく無かったんだ。

椿を憎むと決意したのに、本当はどんな理由が有ろうと一緒に同じ道を歩みたかったんだ。