神授の森の西には、飛来が行く事を赦されなかった地が在るらしい。

もう可能性は其処しか無い。

「もう貴女しかあの村にいないんですか?」

「ええ……」

飛来は涙を拭いながら言う。

美紗は同情の視線を向けるが、キャルナスは違った。

「此処です。」

辿り着いた場は、湖。

蒼い水が湧き出る、太陽の光と共鳴し合うのは魚。

世間一般で言う、飛び魚の様な魚だった。

(天魚だ。

天界の魚ですよ。)

耳打ちしてくるキャルナス。

天界の魚が?

一体此処はなんなんだ?

神授の村と等しい位、美しいこの地。

なのに、支配者の彼女が行く処は、何時も赤く染まるのだ。

「あ゛ァ゛」

美しいこの場には、全く似つかわしくない声がする。

現れたのは……

「光矢(こうや)!」

「さっきの……」

さっき美紗を襲ってきたあの男の子だった。

けれど様子がおかしい。

顔を毒々しい紫色に染め、唸り声をあげながら近づいて来た。

手には短刀を持っている。

「光矢! 光矢!!」

飛来は一心に光矢の名を呼ぶ。

「村の子なの!

一番初めにいなくなった子!」

飛び出して行く飛来の右腕を、キャルナスは掴む。

「近づいてはなりません!

ミサ! その子は悪魔に憑依されています!!」

突然、憑依なんて言われても、検討がつかない。

ましてや、どう対応すれば良いかなど。

「白銀界!!」

仕方がないから白銀界を光矢に放つ。

光矢の周りに白銀の結界が張り巡らされる。

結界に光矢が戸惑っている合間に、美紗たちは光矢から距離を置く。

「低級悪魔がもう支配している。

おそらく、彼はもう……」

嘘。

つい前までは笑っていた、紙袋を抱えていた子はもうこの世界にはいないのか……?