ここはビルのワンフロアにあるクリニック。
入院施設もなければ、当然分娩設備もない。
「妊婦健診は32週までお受けできますが、産む病院は今から探していただかないと」
「今から?もう?すぐに?これから?」
「ええ、早いに越したことはありません」
医師は、里帰り出産を希望するなら早く両親に相談したほうがよいと助言した。
テレビなどで、医師不足や産科不足が深刻であるという状況は知っていた。
けれども――
このとき当事者になりたての私は、まだ知っている“つもり”にすぎなかったのだ。
その過酷な現実と、厳しすぎるその状況を。