「リオちゃん…」
食堂を離れ、校舎に足を踏み入れた瞬間、前方からフッと笑う声とともに、あたしの名前が呼ばれ、その声に眉が寄る。
案の定、顔を上げると見たくもない男が壁に背をつけてつっ立っていて、
「あれ?無視すんの?」
通り過ぎるあたしの腕を掴んだ。
その掴まれた腕に視線を落とし、そのまま男を睨み上げる。
「そんな怒んなって」
男は馬鹿にしたようにフッと笑う。
「離して。あんたと関わってる暇はない!!」
「あのさ、俺にも一応、直輝って言う名前があんだけど」
「あっそ…。じゃあ離して」
「この前の事、考えてくれた?」
この前?
いくら記憶を辿っても、何を言われたのか思い出せないあたしに、
「…俺と付き合うって話」
そう言われて、あたしの目が一瞬にして泳いだのが自分でも分かった。
未だに視点をどこに合わせればいいのか分からないまま、足元あたりをフラフラと視界が過って行く。
空気が重い。息が詰まりそうになる…
「…離して、」
未だに掴まれている腕からから嫌な体温が伝わり、しっかりそこに視点を合わせて、あたしは小さく呟く。