チョコバナナの屋台。

王子はキラキラと目を輝かせて、チョコバナナを見つめてる。

よっぽどチョコバナナが好きなのねと思い、私は2本買ってきて、王子に1本をさし出した。

「どうぞ」
と私は笑顔で言った。

「……ごめん」
と王子は気まずそう言った。

「きらい?」

「僕、チョコバナナ
  ……ダメなんだ」

「そっか……」

悲しかった……。

チョコバナナを2人で食べて、楽しい思い出を作りたかった。つらい夜だったけど、せめて笑顔でサヨナラしたい。そんな気持ちで買ってきた。

だけど王子はチョコバナナが食べられない。かえって気まずい思いをさせただけ。

最後の最後まで、救いようのない夜だった。

それにしても不思議。チョコバナナがダメだなんて……。だって、あんな幸せそうな笑顔で見てたのに……。

私は王子に質問する。
「チョコは好き?」

「うん、好き」

「バナナは?」

「バナナも」

「チョコは好き、バナナも好き。でもチョコバナナはダメなんだ?」と私は笑う。「変なのー」

「そうだね。変だね」
と王子も笑う。

「食べてみれば? おいしいよ」

「おいしい……かな?」
と王子は驚いた顔で言う。

「だってチョコもバナナも好きなんでしょ?」と私はひとくち食べながら言った。「うん、おいしい!」

王子はうなずく。
そして私の食べかけのチョコバナナを取り上げて王子はひとくち食べた。

ビックリした!!!

「それは私の食べかけだよ! 2本買ってきたんだから、食べかけじゃないやつを食べなよ」と言いたかったけど、今さら遅い。王子はすでに食べてしまった。

王子とキス!
王子とキス!

私の食べかけのチョコバナナを王子さまが!! 

こっ、これはキスだ。私たちはチョコバナナでキスをしたのだ!

ふたたび汗が……。ハンカチでふいてもふいても汗が流れる。

息が苦しい…めまいがする…お腹も痛くなってきた…ダメだ、倒れる…

その時、王子に異変が!

王子はチョコバナナをひとくち食べると、目をギュッと閉じ、とても苦しそうに顔をゆがめた。

「だいじょうぶ?」と私は大声をあげる。「はやく吐き出して!」