きっと王子は退屈している。私をつまらない女の子だと思っている。
「はやく時間が過ぎてくれ!」と私は心の中で叫ぶ。

王子が歩くと、みんなが振りむく。だれもが、うっとり王子に見とれる。

それから、となりを歩く私に注目が集まる。私が王子の彼女だと、みんなは誤解する。

すれちがう人の視線が冷たい。私と王子のバランスの悪さに、だれもがビックリする。私の顔を見ると、笑いだす人さえいる。

「となりの女の子は何なの?」と周りの人から言われてる気がする。

みじめだった。恥ずかしくて悲しくて、私はうつむいて歩く。

緊張で体が硬くなる。着慣れない、ゆかたのせいで、つまずく。何度も転びそうになる。

並んで歩きたくないから少し後ろにさがる。

すると王子は私の歩調に合わせてくれる。私の横にピタリと寄りそう。

そして「僕、歩くの速すぎるね。ごめんね」などと言う。

「ねえ王子、あなたのやさしさは大迷惑です!」と思った。思っただけで口にはしない……。

楽しいはずの夏祭り。なぜこんな悲しい思いをするの?

そして退屈な時間を過ごしている王子に、すまない気持ちになる。

「でも私が誘ったわけじゃない! あなたが勝手についてきたんだ!」と思ったりもした。思っただけで、もちろん言わない。

屋台の列がおわるころ、心の底からホッとした。
これでサヨナラ。やっと自由になれる。

たとえ王子に「このあと夕食でも」なんて誘われても、お断りだ。

誘われるわけないか…
ははっ…バカみたい…

王子はふと足をとめて、大きな、ため息をつく。そして幸せそうな笑顔で遠くを見つめる。

王子の視線の向こうには