結局、高瀬くんが家まで歩いて送ってくれることに…。
「じゃぁ、またね。」
上野智也くんが笑顔で言った。
『また』はないんだろうけど…。
「お腹、まだ痛む?」
「少し…」
高瀬くんが車のドアを閉めて、あたしを心配そうに見る。
優しい…
やっぱ2人ともアイドルだし、イメージが大切だからかな…
「送るのが智也じゃなくてごめんね。」
「え?」
「俺のこととか知らないでしょ?」
「や、知ってます!」
すいません、昨日知りました…。
「グループん中で、智也ばっかが人気になってて、仕事も多くて…。
俺は、まだ名前も覚えてもらってないことだってあるのに。」
高瀬くんが歩き出して、あたしも慌てて横に並んだ。
「高瀬くんは…」
「雄哉でいいよ?」
いやいやいや。
そんな友達みたいに呼べません。
「俺ら、2歳しか変わんないじゃん。だから敬語も別にいいし。」
芸能人って、みんなこんなにフレンドリーなんだろうか?
「で、何って?」
「あ…えっと、雄哉…くんは、」
すごく、ぎこちなくなってしまった。
「…なんで、アイドルになろうと思ったの?」
「女の子にモテたかったから。」
そんな理由で!?
「つーか、憧れてたからかな。
ドラマも、歌も、雑誌のモデルも、全部1人の人がやっててすげーなって。」
たしかに、いろんなジャンルの仕事をしてるんだ。
「あと、自分に自信を持ちたかったから。
今はまだ自信持てるほどじゃないけど、いつか智也ぐらいに仕事いっぱいこなして、もっと成長したい。」
話を聞いてるだけで、雄哉くんは今の仕事が好きなんだってわかった。
なんだか輝いて見えて、眩しかった。
「あたし応援するね、雄哉くんのこと。」
あたしの言葉に、雄哉くんは嬉しそうに笑った。
「ありがと。」
雄哉くんの笑顔、初めて見た。
「あっ、ここ。」
話をしながら歩いていると、あっという間に自宅に着いた。
「あ、俺、笑佳ちゃん家、知っちゃった。」
冗談ぽく雄哉くんは言った。
けど、その呼び方が、実際よりずっと年下の人と話してるようで…
ほんとは2歳しか変わらないのに、
そんな感じがして、何となく言葉を返せなくなった。
「どうかした?」
「え、ううん。何でもない。
送ってくれてありがと?」
「…良かった。思ったより元気みたいで。」
雄哉くんの言葉に、自分でもびっくりした。
でも、それって、雄哉くんと上野智也くんのおかげなのかも…
家のドアを開いてから振り返ると、雄哉くんが少し笑って口を開いた。
「ほら、入りなよ?」
やっぱり優しい…
家に足を踏み入れて、少しずつゆっくりドアを閉めていく。
最後の、ドアの隙間がなくなるまで、ずっと雄哉くんは見送ってくれた。
「ぜっっっったい、嘘だ。」
次の日のこと。
今は、昨日なんで結局休んだのかを、美奈ちゃんに説明していた。
「『上野智也が助けてくれた』?
何言ってんのー。」
信じてもらえてない様子。
「そんな嘘つくわけないじゃんっ」
「笑佳の妄想じゃないの?」
「ちがうよ!」
たしかに普通はありえないと思うし、ドラマみたいな話だし。
けど、実際に会っちゃったわけで。
あっでも考えてみたら、助けてくれたのは、高瀬くん…じゃなくて雄哉くんもだ。
あのとき、襲われそうになったあたしを…
そーだ!
「ほら、これが証拠。」
あたしは、美奈ちゃんに手首を見せた。
あまりに強い力で押さえられたから、今でも少し赤くなっている。
「…まじで…」
相当驚いた顔で、美奈ちゃんは呟いた。
「ここまで手の凝った嘘、初めて見た!」
「だから嘘じゃないって!」
もうっ…どうやったら信じてもらえるかな?
こんな元気だけど、結構怖かったんだから…
あ、絵梨だったら信じてくれるかも。
でも絵梨に言ったらきっと、
「お願い!あたしも智也と会わせて!?」
ってことになっちゃうんだろうし…
どっかで聞いたことがある。
アイドルは、女の子と会ったり、アドレス教えたりするのって、すごい制限されてるらしい。
恋愛も好きなようには出来ないし、結婚なんて早くからは絶対に出来ない。
そんなのを聞くと大変だなーって他人事に思ってた。
…まぁ、もう会うこともないんだろうけど。
――放課後。
「美奈ちゃん。帰ろー?」
「うん。あ、絵梨と駅前の新しく出来た喫茶店行こうって話してたんだけど、笑佳も行く?」
『行くでしょ?』って顔の美奈ちゃん。
「行く行くーっ」
新しいものはチェックするのが、あたしらの間では当たり前。
んで、期間限定の文字にも弱かったり。
靴箱を出て、校門まで歩いてた時。
「ちょっ、あの人超かっこいー!」
絵梨が、校門近くに立ってた人を指して言った。
…絵梨ってちょっと、や、かなり面食い?
校門前にいるその人は、制服を着てないから、ここの生徒ではないみたい。
グラサンをかけてて、顔はよくわからないけど。
「絵梨、そんな指さしてたら失礼だし。」
美奈ちゃんがすかさず注意する。
「でも、誰待ってるんだろ?ここの生徒の誰かってことでしょ?」
「誰かの彼氏ー?」
「まじで!」
小さめの声で話をしながら、3人で歩いていく。
「あ、まだ帰ってなくて良かったー」
突然、グラサンをかけたその人が口を開いた。
気のせいか、あたし達の方向を見ていて。
念のために後ろを見ても、誰もいない。
あたしには全然見覚えないし…
てことは、美奈ちゃんか絵梨の知り合い!?
「美奈ちゃん、知り合いなの?」
「ちがうってー。絵梨じゃないの!?」
「あ、あたし!?知らない人だよ!?もしかして、ナンパ?」
絵梨のちょっと嬉しそうな声。
3人でもう一度、相手を見てみた。
「えっ、もう俺のこと忘れちゃった?
笑佳ちゃん。」
って……
あたしですか!?
「なに!どういう関係!?
彼氏なの?」
絵梨がくいついてきた。
「ちっ、ちが―」
「秘密。」
は?
あたしの言葉を遮り、その人は勝手に答えた。
この人だれっ!?
「今から笑佳ちゃん、借りてもいいですか?」
その人は続けて、美奈ちゃん達に聞いてくる。
『笑佳ちゃん』
こんな呼び方をする男の人は、1人しかいない。
その瞬間に気がついた。
「雄哉くん…!?」
「うんっ」
悪戯っぽく微笑む雄哉くん。
グラサンかけてるから、気がつかなかった。
なんか全然…雰囲気が違う。
美奈ちゃんと絵梨は、驚いて雄哉くんに圧倒されてる様子。
「あ、えーと、笑佳ならいつでもどーぞ!」
前の質問に、美奈ちゃんがやっとのことで反応した。
「あっそうそう!持ってっちゃって下さい!」
美奈ちゃんに便乗して、絵梨もあたしの背中を押す。
「じゃ、お借りしますっ」
雄哉くんは、あたしの手を引いてそのまま歩き出した。
「え!てか、なんであたしの学校知ってるの!?」
「なんでって、昨日、制服着てたじゃん。たしかあの学校の制服だなーって。」
なるほど。
…じゃなくて!
「…どこ行くの?」
「着いてきてほしいとこがあんの。」
「あたしに!?」
「そうっ」
「あの、仕事は?雄哉くん」
「今日は午後はオフ。」
「そーなんだ…その、あんまアイドルが歩き回らない方が…」
その言葉に、雄哉くんは足を止めてあたしを見てきた。
「…俺といるの、嫌?」
すかさず首を横に振る。
「じゃ着いて来て?」
「うん」
胸の辺りが、妙に熱くなった。