こうしてゆっくり、人目を気にせずに買い物をしたのは初めてだ。
自分が物心ついた頃には、もう人間があちこち侵略していたから。
正直、人間は憎い。
けれど、こうして常磐と過ごしていると、そういう負の感情は忘れてしまいそうになった。
この男には、不思議な力がある。
何となく、そう思った。
「じゃあ、お会計してきますね」
「あー、待って。俺が行く」
「え?いや、僕が行きますよ」
「この前3割引の券貰ったから、使っちゃいたい感じ」
それくらいなら自分が掲示するのに、と思ったが、常磐はさっさとレジに行ってしまい、言うタイミングを逃してしまった。
人間に優しくしてもらうのは初めてだ。
なかなか落ち着かないところがあり、カノヤは少しだけ戸惑う。
「ちょ、買い過ぎ。荷物持って」
「はい!」
ただ、自分を一人のヒトとして見てくれていることが嬉しくて、店の中だというのに大きく返事をしてしまい、途端に顔を赤らめた。
それを見た常磐が優しく微笑んだのを見て、恥ずかしい反面、何だか穏やかな気持ちになれた。