◆
「はーい、開店かいてーん」
いつもの怠そうな言葉と共に、駄菓子屋松金は開店した。
朝日が眩しく、旗を持ったカノヤは布越しに太陽を見上げる。
今日も暑くなりそうだな。
そう思いながら、常磐を見やれば案の定店の奥に消え、結局自分が旗振り兼会計か、と溜め息を吐いたときだ。
「これ、ちょうだい」
「ん?」
服の裾を引っ張られ、視線を下に向けた。
「君は……」
「よぉ、セイジじゃねーか。どうした?万引きしねェのか?」
カノヤが言葉に詰まると、いつの間にか後ろに立っていた常磐が悪戯っぽく言った。
そう、目の前には、いつかの万引き少年・セイジの姿が有ったのだ。
「あの時はごめんなさいってば。もう万引きはしないよ。母ちゃんを悲しませたくないし」
それに、とセイジは続けた。
「俺の母ちゃん、ちゃんとした良い病院に入れてもらえるようになったんだ」
「へえ…」
常磐は驚いた。この子供に母を病院にいれるほどの財力はなかったはずだ。まさか、宝くじに当たったのか…?
セイジははにかむように笑ってから、言った。
「愛護のおねーちゃんがさ。出世払いじゃ、って」
「「………」」
二人は、それを聞いて目を見開き、その後で優しく微笑んだ。
「……よかったな」
やはり、子供は笑顔が一番似合う。