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「はーい、開店かいてーん」


いつもの怠そうな言葉と共に、駄菓子屋松金は開店した。

朝日が眩しく、旗を持ったカノヤは布越しに太陽を見上げる。

今日も暑くなりそうだな。

そう思いながら、常磐を見やれば案の定店の奥に消え、結局自分が旗振り兼会計か、と溜め息を吐いたときだ。


「これ、ちょうだい」

「ん?」


服の裾を引っ張られ、視線を下に向けた。


「君は……」

「よぉ、セイジじゃねーか。どうした?万引きしねェのか?」


カノヤが言葉に詰まると、いつの間にか後ろに立っていた常磐が悪戯っぽく言った。

そう、目の前には、いつかの万引き少年・セイジの姿が有ったのだ。


「あの時はごめんなさいってば。もう万引きはしないよ。母ちゃんを悲しませたくないし」


それに、とセイジは続けた。


「俺の母ちゃん、ちゃんとした良い病院に入れてもらえるようになったんだ」

「へえ…」


常磐は驚いた。この子供に母を病院にいれるほどの財力はなかったはずだ。まさか、宝くじに当たったのか…?

セイジははにかむように笑ってから、言った。


「愛護のおねーちゃんがさ。出世払いじゃ、って」

「「………」」


二人は、それを聞いて目を見開き、その後で優しく微笑んだ。


「……よかったな」


やはり、子供は笑顔が一番似合う。