カノヤは驚いたように鈴カステラと常磐を交互に見た。
この男は人間だろう。
けれど、自分が偽民だと言っても、差別するようなことはせず、しかも自己紹介をしてきた。
「食えよ。甘くて美味いぜ。つーか鈴カステラは主食だよな」
常磐はカステラの袋をカノヤの目の前に突き出す。
カノヤは恐る恐る袋に手を入れ、小さな丸いカステラを取り出した。
人間の主食はパンや米だったような気もするが、そこは気にしないことにして、好意に甘えてそれを口に含む。
「甘い……」
「だろ?それ店のなんだけどさ、俺の昼飯だからお裾分けってことにしといてやるよ」
カノヤが小さく呟くと、常磐は嬉しそうに笑った。
その後、常磐は思い出したようにカノヤを指差す。
「あ、キミさぁ。近くのコンビニでバイトしてた子じゃない?名前忘れたけど」
「あっ、カノヤです。……偽民だって知られて、クビになっちゃいましたけど…」
はっとして名前を名乗り、再びうなだれてしまうカノヤ。
常磐は鈴カステラを口に放りながら、「よし」と呟いた。
「カノヤ。俺んとこで働け」
「はい……?」
新しいバイトが見つかった。