また明日。

 いつもその言葉が私と千都瀬のさよならの言葉だった。明日もいつも通りに「おはよう。今日もセミが賑やか」って始まる予定だった。

 小学生の秋。千都瀬の両親が亡くなった。お盆の帰省ラッシュで混む高速道路を、両親、千都瀬のおばあちゃんを迎えに行くために走っていた。一瞬。私はタンクローリーでぺしゃんこになった見覚えのある車を、テレビで知ることになった。

 これはほんの序章で、私たちの始まりにしか過ぎない。
 誰かの存在がなくなることで、こんなに世界を変えるとは知らなかった、愚かな私との決別となった。


 「最近、チィちゃん見ないけど。学校は来てるの?」母さんはパートが終わると夕飯の支度に取りかかる。私は学校から帰ったばかりで、汗に濡れた制服をまだ着ていた。「顔は見るけど。授業はでてないよ。噂じゃ、テストは白紙なんだって。単位も危ないんじゃないかな。まぁ…私には関係ないけど」「夕飯。食べに来るように言っといてね」「…やだな」

 チィちゃんは千都瀬のことで、昔はそれはそれは可愛らしい少年だった。私も幼いながらに、少し心動いて時もあった。今となっては人生の汚点。クラスに一人はいるモテる男の子の、正に代名詞。ということにして、私自身の汚点を隠すことにする。
 そんなチィちゃんが私にとって、嫌な男子〓千都瀬になったのが、前述、千都瀬両親の事故からになる。

 あの人気者千都瀬が学校をサボり始めた。
 地元の中学に進学してからは、絶えずタバコの匂いを連れて来る。西の渡り廊下を音楽の移動教室のために使うのが、どっれだけ嫌だったことか。あの廊下は千都瀬のタバコ部屋と言われていた。たまに目があうと、一瞬睨まれて顔を反らす。
 私の友達ではないが、千都瀬が好きだという物好きな女子もいた。どうやら、こっぴどいふられかたをしたらしい。なんと優しい心のない奴だろう。

 もう私の知ってるチィちゃんの面影はどこにもない。