『何でもねぇよ。馬鹿、詩織』



明らかにいらついてる声でそういうと電話は切れた。

何なんだ…一体。


あたしが何かしたとでも言うんかい?あぁ?


なんて、言わないけどさぁ…

どうしたの?



あたし達、世界にたった一人の兄弟なのに。



ぼーっとケータイを眺めていると


「ごめんっちょっと混んでて…どうかした?」


と駆け寄ってきた昴くんに顔を覗きこまれてかなりびびった。

「やっ…いやっ、何でもないよっ!あっチ、チケットありがと!お金…」


びびったあたしはかなりどもった。


…何だか早口言葉みたい。

「いいよ!こんぐらいおごらして?」


惜しげもなく爽やかな笑顔を振りまく昴くんに周りの視線が痛い。

「えー?…あの女の子合ってなくない?」

「男の子はかっこいいのにねー」


悪口も言われてるし…

そりゃ自分が一番驚いてんだから。
あたしが理由聞きたいくらいだよ、本当に。


はぁっとため息をつきながら、下を見て足をぶらぶらしてると。

「ひぃっ」


「すいませんでしたっ」


叫び声と謝った声が聞こえて顔を上げた。
でも、その時にはもう遅かったみたいでさっきの悪口を言ってた女の子たちはいなかった。

昴くんを見ると、女の子たちが行った方をずっと睨んでた。
その眼を見て確信した。