「平沢さんって、チョコって、彼氏居る?」
ああ、これ、夢だ。
すぐに解る。
だって、これは、
一年生の時のことだから。
ちょっと照れたみたいな、竜也の顔。
イケメンだよねーとか、
カッコイイよねーとか、
いろんな子が、言っていた。
だから、
そんな竜也に話しかけられることは、
ちょっとだけ、
誇らしくて、
自慢だった。
「いないよ?」
そう、返事したあたしに、
竜也の頬がすごくゆるむ。
だいたい、
こういうときの、
こういう言葉が、
どういう意味なのかは、
言われたことなくたって、
想像すれば、
解ることだった。
だけど、
はじめは、
その言葉が、
何かの暗号みたいに聞こえて。
はじめは、
その言葉が、
別の誰かに向けた言葉に聞こえてた。
だって、あたしは、
父親と寝てる、
そんな子、だったから。
だけど竜也が、
話しかけていたのは、
まぎれもないあたしだったから、
だから、あたしは、
竜也に向き直って、
小首なんかをかしげてみた。
ほんとうは、
あのとき、
吐き気が、してた。