「けど…そのキッカケがあんただったのは…それだけは、許せない…!」


雅樹は拳を上げる。


「雅樹っ…!」


「殴るなら、殴ればいい。
それで気がすむなら、殴ってくれ。」


楠本さんは雅樹をじっと見つめる。


「でも、菜々ちゃんを責めるのはやめろ。
こんなに怯えてるだろ。」


雅樹は、はっとしたように私を見た。


私は無意識に震えていた腕を押さえようと抱き締めた。


雅樹は、眉間に皺を寄せ
だらんと掴んでいた手を離した。

そして首をうなだれる。



別れてから、私は今まで知らなかった雅樹をたくさん見た。


雅樹も無理してたの?


あんなに穏和で大人だった雅樹は、もうどこにもいないような気がした。