吐く息が、荒い。
胸がドキドキする。
少しの耳鳴り。
熱くなる頬。
その原因は、この人しかいない。
「菜々ちゃん。」
私が辺りを見渡していると聞こえた、心地好い声。
「楠本さん…」
「突然ごめんね。大丈夫だった?」
「あ、はい。大丈夫です…」
頭に過る雅樹の顔。
心配そうな、美紀の顔。
浮かんで消えない存在に
私は目を瞑った。
美紀に上手く説明できないまま
「大丈夫だから。」と、
その場を離れた。
「…菜々ちゃん。」
すると、
突然に触れた楠本さんの指。
私の頬に触れた、指。
私は自然に、びくっと
体が震えた。
「菜々ちゃん…泣いた?」