―好き。
私は雅樹にまだはっきりと口で
伝えたことがない気がする。
「好きだよ。」
「私も。」
この流れが、いつも通りだったから。
雅樹の「好き」に、
鈍くなったのはいつから?
それが…当たり前だと思い込むようになったのは、いつから?
私が、
私が雅樹を好きで当たり前だと思い込んだのは……
いつから?
「菜々。」
授業が終わって教室を出ると、
雅樹が私の腕を掴んだ。
「なぁに?」
私は見上げる。
「今日、放課後空けといて?」
「えっ?」
「いいから。な?」
そう言って私の髪を撫でた。
―チクン。
心地好いはずの行為が、
なぜが胸に刺さった。