耳元で風が鳴る。


いつもは通りすぎて気にもしないのに。


嫌なくらいに、聞こえた。


何か、何か言わなくちゃ。


「…っ…」


「家は?」


―え?


「菜々ちゃんの家、ここから近いの?」


「家、ですか?」


「うん。」


いきなり、家?


「私は、ここから1駅先にあります。」


「そっか。なら、まだ時間ある?」


「まぁ…って、え!?」


楠本さんはいきなり私の手を握った。


「じゃあ、今からの時間、俺にちょうだい?」


「えっ、楠本さん?!」


夜風が髪をかすめる。


さっきよりも早い速度で、
私たちの間を通りぬけた。


今はなぜか、心地よい。