そんな蒼子の密かな楽しみは音楽を聞くことだった。シングルでも1000円はするCDが買える程金銭的な余裕もなく、レンタルショップも自転車で行ける距離には無い為、情報源はもっぱらラジオの録音だった。小さなラジカセにかじりついてはDJの曲紹介と共に録音ボタンを押す。60分のカセットテープはすぐに一杯になった。大学ノートにアーティストの名前と曲名を記録して、取り終えたテープはお菓子の空き缶に大切に保存した。今のようにネットから音楽がダウンロードできるわけではなく、ミリオンヒットが次々に出て世間を賑わしていた頃だった。幼い頃からピアノだけは習い続けていた蒼子に、様々なメロディーはドレミの羅列として入ってくる。「ソミーミーレド、ドドレミミミファミー」といった風に。蒼子がバンドに……ピアノではなくドラムやベースやギターに興味を持ち始めたのも当然だったかもしれない。
丁度その頃、蒼子の数少ない小学校からの友人からある誘いがあった。
「ウチのクラスの友達が他校生と組んでライブやるんだけど行ってみない?」
その友達とは面識は無かったし、知らない所に行くのは出無精な蒼子にとって苦痛を伴う行為ではあったが、高校生のライブとはどんなものだろうという興味も湧き、冷やかし半分で行ってみることにした。