このコの名前はなんだったっけと思いながら、あたしは首を傾げた。
「さぁ? バイトか、女のとこじゃない?」
「えー。今日は会えると思ったんだけどなぁ」
残念そうな彼女に、あたしはまた作り笑い。
笑っておけば、たいてい物事はスムーズに進む。
「シキ。これからどうする?」
また誰か別の仲間が話しかけてきた。
赤い髪のこの男の名前は、わからなかった。
顔しか知らないのに仲間って、笑える話だ。
「次行く? それとも……俺んち来る?」
肩に手を回されても、あたしは笑っていた。
「どうしよっかな」
その日は泊まるとこを決めていなくて。
前日までの宿には、バイバイしてきちゃっていたし。
いいよって答えようとした時、
「浅倉(あさくら)!!」
背後で誰かがそう叫んだ。