財布も持っていないことを知った時は、愕然とした。
本当に色々な男の元を渡り歩いて、その日暮らしの生活していたのだ。
そんなシキが、新しい服を着ている。
これは一体どういうことだ?
「なんだ、その格好」
「ん? ああ、これ?」
「買ったのか?」
「そんなお金ないよ。もらったの。背中のファスナーが下せなくて、脱げなかったから。先生待ってたよ」
もらった? 誰に?
背中のファスナーに手が届かないなら、
着た時は誰にファスナーを上げてもらった?
言いたいこと、聞きたいことはたくさんある。
それをなかなか口に出せず、俺はシキの背後に立つ。
恋人なんて、かん違いもはなはだしい。
黒猫は、いまも野良のままだった。