「数学の先生なんだね」
採点途中の答案用紙。
カラーボックスには教材がたくさん並んでいた。
先生は少し顔を赤くしながら、ポケットから煙草の箱を取り出した。
マイルドセブン。
箱をたたいて1本出し、口にくわえる一連の動きは流れるようで、
腹立たしいくらいかっこよかった。
「だからエンコーがどうとか言ってたんだ」
「もう忘れろ。で、何飲む?」
言いながら、コーヒーの用意をしはじめる先生。
あたしはその背中を見ながら、
「ココアがいいな」
気づけばそう答えていた。
思い出を、引きずっていたのかもしれない。