それは、あたしの名前じゃなかった。
それなのに足を止めてしまったのは、
その名前を知っていたから。
よせばいいのにふり返ってしまったのは、
ただの愚かな好奇心だった。
この時ふり返ったことを、あたしはその直後に後悔することになった。
その後悔はいまも、あたしの心を支配している。
あの時振り返らなければ、
心の中で唯一汚れず残っていた場所を、
守れていたはずなのにと。
「やっぱり浅倉か。こんな時間に、こんなところでなにをしてるんだ?」
その人は、あたしのことを“浅倉”と呼んでいた。
予想もしていなかった相手。
あたしは大きく目を見開いた。