「ヨッちゃん!?」

本棚の前に立つ良子の耳に懐かしくほろ苦い呼び名が届く。

中学をお受験した良子は小学校の友達とは離れて有名私立中学に入学し、今はその高等部の三年だ。

中学からは皆に『ヨッちゃん』なんて呼ばれていない。

小学校の時の友達も今は連絡さえ取っていない。

(まぁ、塾通いばっかりだった私にそんな仲良しはいなかったけどね)

だいたい今、顔を見たってお互いに分からないと思う。

(だから今の『ヨッちゃん』は私ではないのさ)

そう結論づけた良子はそのまま本棚に向かって歩き続けた。