そして良子は誰も通らない路地をうらめしそうに見つめる。

(なんで私はカツアゲなんだよぅ……。なんで『可愛いね』じゃないんだよぅ……)

良子はそんな意味でも少し悲しくなった。

「早く出せッ!」

灰色がイライラと言う。

(ひィィィ!こ、恐ッ!)

王子様も来ないようだし。

命も惜しい。

(はぁぁ……)

良子が仕方なくバッグに手を伸ばした時、黄色と灰色の肩越しに、ママチャリに乗った真っ赤な頭が見えた。

(たたた……玉置君ッ!?)

見覚えのある赤頭に下品なヤンキー仕様のスウェット。

間違いない。

(もう、この際王子じゃなくて玉置君でいい。人生、適材適所だッ!)

次の瞬間良子は叫んだ。

「玉置!玉置ィィィ!くぅーん!」